ChatGPTに「人生案内」させてみた – AIカウンセラーの可能性を探る

会話型AIに悩みを相談する人が増えているといいます。内容は恋愛や人間関係にとどまらず、メンタル面での不調なども。

AIはカウンセラーになれるのか?その可能性を探るため、いま話題の「ChatGPT」で実験してみました。

目次

AIカウンセラーとは?

概要

AIカウンセラーとは、人間のカウンセラーの代わりに、蓄積されたデータから適切な質問や回答を提示してカウンセリングを行うAIのことです。

AIのカウンセリングへの応用はすでに始まっています。

日本でも、AI技術を活用して心理的問題解決を支援するキリハレ株式会社が、「AIカウンセリング」および「AIハラスメント診断」といった新サービスをリリースしています。

AIカウンセリングのメリットとデメリット

本来、人間行うカウンセリングサービスをAIが行う「AIカウンセリング」のメリットとして、

  • 相談しやすい
  • 時間と場所を選ばない
  • 低コスト
  • 匿名性が保たれる

などが挙げられる一方、デメリットとしては、

  • 人間と比べて感情の理解や共感に欠ける
  • 個人情報漏洩のリスクがある

などが指摘されています。

AIカウンセラー vs. 人間のカウンセラー

ChatGPTによる「人生案内」

長年続いている読売新聞の「人生案内」。同じ相談をChatGPTにしてみたらどんな回答が返ってくるでしょうか? 

出典:人生案内で考える「夫婦関係」、30の悩みと回答を公開

まずは、ある女性からの相談です。

1) 「夫はゲイ…愛されず苦しい」

40代のパート女性です。結婚して15年、子どもにも恵まれています。

しかし、5年ほど前に夫がゲイだと知りました。DVDを何枚も集めて、夜な夜な私に気付かれぬように見ています。

夫は私には知られていないと思っているので、私もいまだに知らないフリをしています。

夫は周囲からの評価を気にする人です。結婚して、子どもをつくり、幸せな家庭で、よき夫だと思われていたいから今までそんなふうに演じてきたのでしょう。

私自身が女性として愛されていなかったことがとても悲しいです。精神的にも耐えられなくなり、体調も崩してしまいました。

毎日が苦しくて、切なくて、つらくて。もう限界です。

子どもたちも手が離れてきたので、離婚を考えています。子どもたちに伝える際、離婚理由についてもそのまま話した方がよいでしょうか。

これに対する回答を、人間の回答者とChatGPTで比べてみましょう。

ChatGPTには「簡潔に回答してください。箇条書きにはしないでください」と指示を出しました。

■人間の回答者

5年もの間、何も言わずに耐えてこられたのですね。つらかったことでしょう。

もはや限界だというお気持ちになってもやむをえないこととお察しします。

世の中に性的マイノリティーの方は一定数おられます。

近年少しずつ理解が進んできましたが、あなたが結婚なさった頃はまだ世間の偏見は根強く、自分にうそをついて異性と結婚する人は珍しくありませんでした。

いや、水面下では今もいらっしゃると思います。

夫もきっと良心の呵責に苛まれてきたはずです。

すべてを否定したくなるでしょうが、本当に最初から何もかもがうそ偽りだったのかをご自身に問い直してください。

お子さんが生まれた時、夫はどんな様子でしたか。共に喜び、共にわが子の健やかな成長を願ったのではありませんか。

何があろうとも、あなた方がまぎれもなく父と母。わが子の幸せを祈る心にうそはありませんよね。

あなたが生まれたときは本当にうれしかった、これから私たちは別の道を進むけれど、あなたを愛する気持ちは永遠に変わらない――と伝えてあげてください。本当の理由と一緒に。

両親が互いの人生を尊重する姿を見れば、お子さんはきっと自分を肯定して生きていけると思います。

■ChatGPTの回答

心の中の深い痛みと葛藤を感じます。

まず、あなたの気持ちが十分に理解され、サポートされることが大切です。

夫がゲイであるという事実は、夫の個人の感情や性向に関連していますが、それによりあなたが受け取る影響や感じる痛みは非常に大きいでしょう。

あなたが感じる孤独や愛されていないという感覚、体調の崩れなど、それぞれが離婚を考える大きな要因となっています

子どもたちに伝える際の離婚理由については、子どもたちの年齢や性格、理解度を考慮して選択することが重要です。

夫の性向を詳細に伝える必要はなく夫婦間の関係や感情の問題として伝えることもできます。

ただ、子どもたちが質問をしてきた場合、正直に答えることも考慮に入れることが大切です。

しかし、あまりにも詳しい情報を提供することが子どもたちにとって負担になる場合も考えられるので、適切なバランスを見つける必要があります。

最も大切なのは、あなたの精神的・身体的な健康と子どもたちの安定です。

あなたの状況や感じること、考えることを理解しサポートしてくれる専門家やカウンセラーとの相談を検討することもおすすめします。

ChatGPTは冒頭で「心の中の深い痛みと葛藤を感じます」と述べていますが、AIは実際に感じているわけではないので、共感的な言葉を示しているだけ、いわば「口先だけ」の共感といえます。

そして状況分析、型通りのアドバイスと続き、最後は「専門家やカウンセラー」との相談をすすめていますが、どこかドライな印象です。

次は男性からの相談です。こちらは紙面の都合で少し要約してご紹介します。

2) 「コロナ禍 妻と家庭内別居」

40代の男性会社員。コロナ禍が原因で、妻と家庭内別居が続いています。

コロナ禍が始まってから、妻は神経質になりました。

東京都内の会社に勤務する私は、食事の時も寝る時も妻とは別の部屋で過ごしています。もちろん、夜の生活もありません

一度、妻があまりにも神経質なので私は怒ってしまいました。その後はまともに会話もできていない状況です。

このままでは私も精神的に参ってしまいそうで、離婚が頭をよぎることも。妻と話し合ってももう解決しないような気もしてきました。

コロナ禍以前の生活に戻るのは難しいのでしょうか。

これに対し、人間の回答者は「妻は不安でいっぱいで、夫の気持ちに目を向ける余地がないようだ。話し合いできないなら、手紙を書いてみては?愛情がありながら終わりにしてしまうのは悔しいので、互いのつらさをぶつけ合える手段を探そう」とアドバイスしています。

一方、ChatGPTの回答は以下の通り。

■ChatGPTの回答

コロナ禍は多くの家庭にとって未曾有のストレスをもたらしており、あなたの家庭もその影響を受けていることが理解できます。

解決のための第一歩として、感情を置いておき冷静に妻との対話の場を設けることをおすすめします。

その際、非難や批判ではなく、お互いの感情や不安を理解し合うことを目指しましょう。

妻の感じている不安や恐怖を尊重し、自分の気持ちや望む未来についても正直に伝えることが大切です。

また、妻との関係改善のためにカウンセリングを受けることも一つの方法として考えられます。

専門家のもとで、お互いの気持ちや不安を共有し、関係の再構築に向けた具体的な方法やアドバイスを受けることができます。

ChatGPTもたしかに「もっとも」なアドバイスをしていますが、「精神的に参ってしまいそう」な人に「冷静に妻との対話の場を設ける」ことを説いても、心に響かないような気がします。

第一、そのような対話が難しいから相談しているのであって、相談者にとっては満足のいく回答とはいえないかもしれません。

考察:AIカウンセラーの可能性

癒し効果は期待できない

ChatGPTは自然で暖かみのある言葉を用いて共感や理解を示していましたが、どうも教科書的というか、定型文を読んでいるような空々しい印象を受けました。

AIは、膨大なデータからの情報収集や記憶、パターン化された作業などを得意とする一方、「空気を読む」といったことは不得意であるため、共感や理解を通じて相手を癒すカウンセリングには元来不向きであるといえます。

慎重に応用すべきケース

カウンセラーには、アドバイスの内容そのものよりも、まずは相談者の気持ちを理解し、共感や思いやり、なぐさめを与える、といった「人間独自の心から発せられるもの」が求められます。

相談者は単にアドバイスが欲しいのではなく、カウンセリングの基盤としてカウンセラーへの信頼、カウンセラーとの人間的つながりをも必要としています。

人間味に欠けるAIカウンセリングで、相談者によってはかえって孤独感や絶望感をつのらせてしまう危険性もあり、慎重な応用が求められます

文章の質への依存の問題

「カウンセリングへのアクセス改善」という観点から期待が寄せられるAIカウンセリングですが、ChatGPTのような会話型AIの場合、応答精度が相談者の入力する文章の質に大きく依存する点も問題となります。

回答を得るには、まず自分の悩みについて適切に記述する必要があり、これが大きなハードルになるのではないでしょうか?

もともと文章を書くのが苦手な人もいれば、悩みによって落ち込んでいる人や感情的になっている人もいるはずで、こうした状況で冷静に自分の状況を文章にまとめるのは容易ではないでしょう。

まとめ:目的別に進化させるべき

今回の結果が示す通り、AIは高レベルのカウンセリングには不向きだといえます。

しかし、パターン化された作業の得意なAIは、適切なパターンの提示や繰り返しを通じて治療を図るアプローチの支援に使える可能性があり、実際にAwarefyなどのアプリが開発されています。

また、「一人で悩んでいるより、基本的なアドバイスが得られる方がまし」という相談者も少なからず存在し、そういったケースではアクセスの良さもあいまって「手軽で身近なカウンセリング」となるかもしれません。

前述の「文章の質への依存の問題」などに対処しながら、目的別に進化させるべきだと思われます。

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この記事を書いた人

医療やヘルスケアを専門とする翻訳者。海外の記事や生活に役立つ活用法の紹介を通じて、ChatGPTを考える一助となれば幸いです。

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