医療界に革命をもたらすAIツールChatGPTの可能性とは

AIは、顧客サポートやデータ管理など、ビジネスにおいて様々な形で利用されてきたのに対し、ヘルスケアや医療、医学研究では比較的限定的な導入にとどまっていました。

しかしOpenAI社が開発したChatGPTの飛躍的な性能向上にともない、医学分野におけるAIの応用とその利点、さらにはいくつもの懸念事項について活発に論じられるようになりました。

Dave氏、Athaluri氏、Singh氏がオープンアクセスの科学ジャーナル「Frontiers」に投稿した、2023年5月4日付けミニレビューは、医療とヘルスケアにおけるChatGPTの概論です。

この概論は、現状から今後の課題までの全体像をつかむのに役立ちます。

その内容を項目ごとにまとめてみました。

出典:Frontiers 医学分野におけるChatGPT:その応用、利点、限界、将来の展望、および倫理的考察

目次

ChatGPTの現状

Dave氏らは序文で、「ChatGPTはディープラーニング技術を活用して自然言語入力に対する人間のような応答を生成する先進的な言語モデルであり、OpenAIによって開発された生成的事前学習変換器(GPT)モデルファミリーの一員で、現在公開されている言語モデルとしては最大級のもの」と定義した。

その上で、「ChatGPTはテキストデータの膨大なコーパスを使用して人間の言語のニュアンスと複雑さをキャプチャすることができ、プロンプトの広範なスペクトルにわたって適切かつ文脈に関連した応答を生成する」とその性能を評価しています。

そして、医療システムにおけるAIの活用は、システムの様々な局面で必要な時間を短縮しつつ、精度と正確性を高めることができるため、「極めて重要かつ必須」と強調しました。

医療分野におけるChatGPTの潜在的な応用範囲は、潜在的な研究テーマの特定から、臨床検査診断における専門家の支援まで、多岐にわたるとしています。

しかし、こうした応用にはいくつもの限度があるのに加え、信頼性や剽窃といった倫理的懸念をもはらんでいます。

また、研究論文ではChatGPTのオーサーシップについての問題が浮上する一方で、医療やヘルスケアでのChatGPTの活用例の記録はあまり進んでいないのが現状です。

  • Dave氏らはChatGPTを高性能な言語モデルと評価。
  • 医療分野でのAIの利用は重要だが、倫理的懸念と具体的活用例の不足が課題。

利点と応用

語彙が豊富で流暢な文章を作成する能力を有し、多くのアプリケーションを利用できるChatGPTは、科学論文の執筆にも有用だとされています。

そして、実際に正式な研究論文を作成できることを証明した研究も出てきました。

また、ChatGPTは質問者を単に関連するサイトへ誘導するのではなく、クエリに対し直接返信する検索エンジンとして使用できる可能性も示唆されています。

これにより、文献の検索や選択にかかる時間が削減され、さらにはアイデアの創出、トピックの選定、研究プロジェクトの立ち上げ等が支援されます。

剽窃(ひょうせつ)は論文を執筆する際に特に気をつけるべき点の一つですが、ChatGPTが生成した論文は従来の剽窃検知方法を回避しうると報告されています。

また、ある研究では、代表的な一流ジャーナルに掲載された論文のサブセットを使って、チャットボットに50本の医学論文の抄録(しょうろく)を作成させました。

それらの抄録と人間が作成したものとを剽窃検出ソフトウェア、AI出力検出器、医学研究者グループに精査させて、識別可能かどうか調べました。

その結果、ChatGPTで生成された抄録は、剽窃検出ソフトウェアをスムーズに通過することがわかりました。

一方、患者の健康管理を支援するバーチャルアシスタントの開発は、医療におけるChatGPTの重要な応用の一つです。具体的に、以下のような用途が示されています。

  • 患者とのやり取りや病歴を自動的に記録することでカルテの管理プロセスを合理化
  • 症状、診断、治療などの重要な詳細を自動的に要約
  • 検査結果や画像レポートなどの患者記録から関連情報を抽出
  • 大量の患者データを分析し、臨床試験の適格基準を満たす患者を特定
  • 潜在的な副作用や薬物相互作用などの情報を患者に提供し、リマインダーや服用指示を通じて服薬管理を支援
  • 多様な疾患を持つ患者から情報を収集するための信頼できる会話エージェントとして機能
  • 警告サインや症状に基づいて受診を勧告
  • 臨床判断支援や患者モニタリングにも応用可能

医学生、医師、看護師をはじめとする医療従事者にとっても、ChatGPTはそれぞれの分野における最新情報の収集に役立ち、臨床スキルを評価するツールとしても利用可能です。

医学教育においてきわめて重要な役割を果たしつつ、特にチャットボットは、学生や若者のヘルスリテラシーを高める強力なツールにもなると見られています。

  • ChatGPTは科学論文の執筆や直接のクエリ応答の検索エンジンとしての利用が可能で、研究効率向上に役立つ。
  • 医療において、ChatGPTは患者情報の管理・分析、服薬管理、臨床判断支援など多岐にわたる応用が期待される。

ChatGPTの限界

ChatGPTなどのAIツールを医学論文に使用することは、倫理的問題に加え、著作権法や医療法などを含む法的懸念をもたらします。

AIモデルによって生成される文章の正確さは、トレーニングデータの質と性質に大きく依存しています。

不正確な回答をしたり、以前の対話のフレーズを繰り返したりする傾向があるなど、研究目的での有用性を妨げるいくつかの限界があります。

AI技術の非倫理的な利用は、一種の科学的不正行為に該当する画像の捏造にまで及びうることも懸念事項の一つです。

そのため、研究にチャットボットを使うことに反対する科学者もいます。

学生や科学者がChatGPTを使って他人を欺いたり、生成されたテキストを自分のものだと偽ったりする可能性については、まだ懸念が残っています。

現在のところ、ChatGPTを含む言語モデルは、いずれも医学分野での理解力や専門知識が同程度に不足しているため、人間の書き手の役割を完全に引き継ぐことはできません。

したがって、ユーザーはこのような限界を認識し、書かれた資料の正確さと信頼性を保証するための対策を講じる必要があります。

  • ChatGPTの医療分野での使用は、倫理的、法的懸念や正確さの問題が指摘されている。
  • AI技術の不正使用や医学分野での知識不足は、その完全な利用を制限しており、ユーザーは注意深く対策を講じるべきである。

倫理的配慮

ChatGPTは、AIシステムの開発と展開における「人間の監視、技術的堅牢性と安全性、プライバシーとデータガバナンス、透明性、多様性と非差別、社会的・環境的福利、および説明責任」を重視した、EUのAI倫理ガイドラインを遵守しています。

そして、言語の障壁を取り除き、ひいてはより多くのユーザーが高品質の論文を作成できるという社会的目的に貢献します。

その一方で、ChatGPTのようなアルゴリズムは、インターネットやそれ以外からの増え続けるデータで更新されるため、今後数年でより洗練され効率的になるにつれ、悪用されたり操作されたりする可能性は高いでしょう。

実際、万引きできる方法を調べる目的でクエリを書き換えたケースもすでに報告されています。

これらのことから、ChatGPTはあくまでも補助的なリソースとして利用し、倫理的な配慮を念頭に置いたコンテンツの検証が重要だといえます。

  • ChatGPTは今後より洗練され効率的になると予想されるが、悪用されたり操作されたりする可能性は高い
  • ChatGPTはあくまでも補助的なリソースとして活用し、倫理的な配慮を念頭に置いたコンテンツの検証が重要

将来の展望

将来的にChatGPTは広く利用され、すべてのテキスト編集プログラムに統合されることが予測されています。

ChatGPTによるあらゆるデータ操作を識別できる高度なシステムの開発が待たれますが、現時点ではChatGPTの出力に関して編集者による精査が必要であり、適切なリソースの引用が課題となっています。

論文執筆におけるAIの利用については、各ジャーナルが厳格なガイドラインを提示し、その悪用を最小限に抑えるべきでしょう。

また教育者は、潜在的な学業不正行為の発見をChatGPTの限界の検知だけに頼るのではなく、生徒への課題を工夫してクリティカルシンキングを促進し、テクノロジーの不適切な使用を防止する努力をする必要があります。

ChatGPTは、インターネットに接続されておらず、知識も限られているため、不正確な内容や偏った内容を作成する可能性がありますが。

しかし、ユーザーは サムダウンボタンを使ってフィードバックを提供することができるため、ChatGPTは学習して応答内容を改善することができます。

さらに、ChatGPTによって生成された応答は、AIトレーナーによってレビューされ、システムのパフォーマンス向上に利用されます。

  • 将来的にChatGPTが広く利用される一方で、正確さの確保や適切な利用のためのガイドラインと教育が求められている。
  • ChatGPTはフィードバックを受け取り、学習して応答を改善し、AIトレーナーによるレビューを通じてシステムの性能を向上させる。

まとめ:ChatGPT導入前に懸念事項を十分に検討し、対処する必要性あり

ChatGPTは最先端の言語モデルであり、ヘルスケアと医療の領域で多くの利点と応用が期待されます。

しかし、ChatGPTの使用には、「信頼性、盗用、著作権侵害、バイアス」といった倫理的な懸念事項や様々な限界もあります。

そのためDaveらは、「ChatGPT導入前に、潜在的な制限や倫理的な懸念事項を十分に検討し、対処する」必要性を強調しています。

今後、医学分野においては、ChatGPTの活用と同時に、Daveらが挙げたChatGPTの限界を克服する方法の開発が急がれるでしょう。

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この記事を書いた人

医療やヘルスケアを専門とする翻訳者。海外の記事や生活に役立つ活用法の紹介を通じて、ChatGPTを考える一助となれば幸いです。

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